コラム

2018/07/01日本のクルーズ産業興隆への期待

国際本部  主任研究員青木 昌史

国土交通省の調査によると、2017年の日本人のクルーズ人口は31万5千人と、前年比27%(6万7千人)増加して2年連続で過去最多を更新した。IT絡みの新サービスであればこの程度のマーケット拡大は日常茶飯事かもしれないが、ある程度の歴史を持つクルーズという産業にあって、この数字は目を引く。中国からの観光客がクルーズ船で日本に押し寄せていると報じるニュースを目にするようになって久しいが、ブームはいよいよ日本人にも浸透しつつあるようである。

日本人クルーズ人口の内訳を見ると、海外での寄港乃至乗下船が含まれる外航クルーズが前年比+27.5%と2年連続の2桁増加を記録して20万人に迫っており、ブームを牽引しているが、一方で国内クルーズも前年比26.5%増加して約12万人となった。「クルーズ」と聞くと世界一周の豪華客船を思い浮かべる向きも多いと思われるが、昨年は国内クルーズも活況であり、様々なスタイルのクルーズが日本人の間に広がりつつあるものと思われる。

クルーズ旅は、大きな船で大海原に乗り出すことだけをとっても非日常を味わえる魅力的な旅行スタイルであるが、その他にもメリットが多い。船内では、朝昼晩と豪華な食事を楽しめるのはもちろんのこと、劇場などのエンターテイメント施設やスパやジムなどリフレッシュのための施設も充実しており、航海中も飽きさせない工夫が凝らされている。海外船社が誇る超大型船は、ウォータースライダーやクライミングウォール、複数の店舗が並ぶアーケードなども備え、ミニ・テーマパークの様相を呈しており、老若男女の様々なニーズに応えている。このようにサービスの充実した「洋上を動くホテル」に滞在しながら、荷物を持ち運ぶことなく寄港地を巡ることができるのも大きな魅力である。特に、魅力的な観光スポットが沿海部や島しょ部に点在する日本では、こうしたクルーズ旅の機動力は如何なく発揮されるであろう(ただし、大型のクルーズ船を受け入れるには相応の施設を備えた港湾が必要であるが、そうした港湾を持っていない島々も多い)。

こうしたクルーズ旅の魅力が日本人旅行者にも徐々に理解されるようになり、クルーズ人口が増加するようになったと思われるが、一方で、市場規模はまだまだ拡大の余地があると見る関係者も多い。規制があるために、日本国内のみを巡るクルーズ旅は日本船社に限られるが、日本船社3社の所有するクルーズ客船はいずれも豪華客船であり、海外で人気を博しているカジュアルなスタイルではない。日本のきめ細やかなおもてなしを提供する豪華客船は今後も不可欠な存在であるが、一方で新たなスタイルとしてより気軽に乗れるクルーズ船で日本国内を巡るツアーが出てくれば、日本人はもちろん訪日外国人の心も捉え、新たな市場を切り拓くことになるのではないだろうか。美しい海と各地の観光地を巡るクルーズが、日本の観光の定番の1つに成長していくことを期待したい。

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