コラム

2020/03/02日本の若者はなぜ旅をしないのか?

ソリューション本部 産業調査部 副主任研究員 コンサルタント森田 洋任

旅先で、海外からの旅行者をよく見かけるようになったが、代わりに日本人の若い旅行者が減少しているように思う。少子化が進んでいるとはいえ、「モノ」消費よりも「コト」消費を好むと言われるミレニアル世代(*1)Z世代(*2)は、もっと旅行に出かけていいのではないか、と疑問に思う。

 <実態>20代若者において、男性では2人に1人、女性では3人に1人が旅行に出かけていない。旅行する場合も相当予算を切り詰めている。

観光庁の旅行・観光消費動向調査によると、2018年度の旅行経験率は20代男性で52.9%20代女性で66.5%男性では2人に1人、女性では3人に1人が旅行に出かけていない。

旅行に出かけている若者のお財布事情はどうか。旅行費用のうち、旅先までの移動費が各年代で変わらないとみた(*3、約3万円程度)場合、1泊当たりの滞在費(宿泊費、食事、旅先での周遊費など)に大きな違いが見られる。全世帯の平均約23,500/泊に対し、1泊当たりの滞在費は20代男性で14,155円/泊(全世帯平均対比▲9,345円/泊)、20代女性で18,631円(同▲4,869円/泊)と他の世代を大きく下回り、相当予算を切り詰めている。

インバウンドの後押しを背景に宿泊施設の価格が上がり、若者は旅行に行きたくても行けなくなっているのではないか。東京都内のホテルの客室単価(ADR)は、2010年以降2千円~6千円/泊上昇。日本人の旅行費用も緩やかに上昇。予算が厳しい若者にとって、宿泊できる宿泊施設の選択肢が少なくなっていると予想される。例え予算に見合う宿泊施設が合ったとしても、満足度は従前と比べて大きく下がるだろう。

若者が旅をしたいと思う可能性

旅先で出会う若い旅行者はほとんど見かけなくなったが、若い旅行者が賑わう場所もあった。「星野リゾート BEB5 軽井沢」、宿泊者全員が35歳以下であれば、31室でおよそ16000円、1人当たり5000円程度で泊まることができる宿である(食事は朝食のみオプション)。

実際に家族で滞在してみたが、1階のロビーは全面ガラス張りで開放感があり、ゆったりとした時間を過ごすことができた。食事の持ち込みも自由。息子の誕生日ケーキを持ち込んだが、お皿やナイフ・フォークも快く貸して頂いた。他の宿泊者も、卓球やボードゲームで和気あいあいと遊んだり、中庭ウッドデッキのテラス席でのんびり読書をしていたり、皆思い思いの時間を過ごしていた。

星野リゾートによると、今まで着手できていなかった若者世代(20代・30代)に向けて、新しい宿泊体験が提案できないかというチャレンジ精神がこのBEB5 軽井沢をつくった理由、とのこと。20203月には、同様のコンセプトであるBEB5 土浦も開業予定。「12食」のフルサービスで若者の予算を超える宿泊料金を続ける限り、若者の旅行離れが進んでいく可能性がある。BEB5のように、従来の枠組みに囚われず、居心地の良い空間を低価格で提供する宿が広がれば、国内の旅行市場が活性化するのではないか。今後、このような若者向け宿泊施設が広がることを期待する。

*1 ミレニアル世代:
ミレニアル世代とは、平成初期(1989年~1995年)に生まれた世代。団塊ジュニア世代の子供と重なる。インターネット環境が整ったころに育った最初の世代で、パソコンよりスマホやタブレットを駆使する。小学生の頃に家族旅行の経験が多く、旅行にはアグレッシブ。(JTB総研)

*2: Z世代:
Z世代とは、1990年代後半から2000年生まれの世代のこと。(JTB総研)
旅行だけでなく普段の生活でも、とにかく「体験」を大切にするZ世代は、旅行においても、その場所でしか味わえない体験を重視。(Booking.com_Z世代の旅行に関する意識調査)

*3: 男女・各世代別の泊数及び旅行金額(18年度)より、旅先迄の移動費が約3万円、旅先での滞在費が1泊当たり23,500円、を費やしている傾向が伺えた。

*4: 週刊ホテルレストラン 各号「日本のベスト300ホテル」特集(2011.11.112012.11.022013.11.012014.11.072015.11.062016.11.042017.11.032018.11.022019.11.01

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