コラム

2019/10/01転換期の香港と日本

公共デザイン本部 PPP推進部 主任研究員加茂 隆子

コンビニエンス・ストアでのありふれた風景(写真1)、しかしここは日本ではない。香港である。

出所:筆者撮影

 

香港では、ここ数年、日本ブームが続いている。香港から日本への旅行客数は、2015年以降、急速に増加し、2017年からは220万人を超えている。香港人の5人に1人は日本を10回以上訪問している。
特に高い関心が寄せられているのが、日本の食についてである。香港は、2018年までの過去14年間、日本の農林水産物の最大輸出先となっている。農林水産物や加工品など日本の食材は、街中のスーパーで容易に手に入る。MTR(地下鉄)の複数の駅では、日本のお結びが売られている。日本のラーメン屋が立ち並び、ラーメン横丁さながらの通りや、ほとんどのフロアを日本食レストランが埋めるビルなども見られる。食事時ともなれば、駐在の日本人に限らず、地元の香港人で店が賑わう。こうした光景は、香港のあちこちで見られる。香港人にとって日本の食は、もはや日常生活の中に溶け込んだ存在となっていると言える。
日本ブームは、何よりジャパン・クオリティの高さと信頼性に裏付けされたものであるが、地道なプロモーション活動の積み重ねが奏功したものでもある。早期から交流を続けてきた鹿児島県や、毎年、訪港してトップセールスを行う熊本県や熊本市など、様々な地方公共団体や業界団体が国と協力し、イベントや県産品の販売会の開催、直営ショップやレストランの運営などを通じたプロモーション活動を続け、販路を切り開いてきた。

図表1: 香港から日本への旅行客数

図表2 香港人の訪日頻度

図表3 日本の農林水産物輸出先(2018年)

出所:全て外務省HP

 

香港は、「世界の富豪ランキング(World’s Billionaires List)」によれば、世界の10億ドル以上の資産を持つ人が住む都市として、2018年には1位、2019年にはニューヨークに次いで2位となっている。こうした購買資力の高い層が多く居住する香港でのビジネスは大きなチャンスにつながるポテンシャルを秘めている。日本の食を知ってもらい、買ってもらう絶好の場と言える。

香港市場の背後には、約14億人の人口を持つ中国本土の市場が控えている。香港人だけでなく、中国本土の市場へのアピールの場としても優位である。

1997年にイギリスから中国へと返還されて以来、香港では「一国二制度」の下で特別行政区として高度な自治と経済的自由が認められ、規制緩和や低税率が維持されてきた。日本企業にとっては、法の概念やビジネス慣習が大きく異なる中国本土への進出には様々なハードルがある。そうした中で、香港は、中国本土の市場に向けた窓口となる。

ここ数年、中国本土からの香港への投資も盛んになっている。粤港澳大湾区(広東・香港・マカオを含むビッグベイエリア)構想が進む中、国際金融センターおよび国際航空ハブとしてヒト・モノ・カネが集まる香港は、中国本土にとっても日本や諸外国にとっても今後、ますます重要な役割を担うであろう。こうした中での今回のデモは、今後、多方面に大きな影響が及ぶであろう。

デモの引き金となった中国本土への容疑者引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」改正案など、香港における中国本土からの影響力は日増しに強くなっている。

未だデモが続く香港。今後の中国本土との関係が、香港経済だけでなく、日本のビジネスに与える影響についても注視しながら、その行方について見守っていく必要がある。

香港は、いま大きな転換期を迎えている。

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