令和2年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)

このたび株式会社日本経済研究所は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)を受けて下記の事業を実施しました。調査にご協力くださった有識者の先生方、特別養護老人ホームの方々に感謝を申し上げるとともに、ここに報告書を掲載します。

令和2年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)
特別養護老人ホームにおける居住環境のあり方に関する調査研究

  1. 事業目的
    特別養護老人ホームでは、在宅に近い居住環境を整えてケアの個別性を高めようと「ユニットケア」の取組みが進められてきたが、室料を負担できない低所得の高齢者も多く、多床室の整備を望む声も引き続き根強く存在している。建物の制約や資金状況によっては、ユニット型個室への改修が必ずしも容易には実現できないといった実態もある。
    このような背景のもと、本事業では、居室類型ごとのハード、ソフト両面における実態及び好事例の収集とその詳細を把握する。有識者からは、望ましい居住環境を創出するうえでの重要な要素やそのあり方、施設職員にとってケアのしやすい環境づくりなどについて聞き取りを行う。これらの調査を通して、居室の類型に関わらず、入所者にとって良好な居住環境を確保するための方策や留意点についてとりまとめる。
  2. 事業概要
    本事業では、主に、特別養護老人ホームにおける居住環境に関するアンケート調査、ヒアリング調査、有識者へのインタビューを行った。アンケート調査については、ハード、ソフトの両面から入所者の居住環境の状況把握のため、無作為抽出した3,000か所の特別養護老人ホームに対し、実施した。ヒアリング調査については、アンケート調査の回答の中から、居室類型に関わらず、入所者にとって望ましい居住環境が確保されている10事例を抽出し、施設職員の方から、より詳しい内容や背景について聞き取りを行った。有識者へのインタビューについては、ハード面、ソフト面のそれぞれの視点から、入所者にとって良好な居住環境を確保するうえでの重要な要素やそのあり方、施設職員にとってケアのしやすい環境づくりなどについて有識者4名にインタビューを行った。
  3. 事業実施結果及び効果
    本事業では、上記2の結果を踏まえ、良好な居住環境を確保するための方策や留意点に関する重要なポイントについて、以下のとおりとりまとめた。
    (1)良好な居住環境を確保するための方策
    ≪ハード面≫
    ・変則的な廊下や死角の設置などにより、監視されているという入所者の感じ方やストレスの減少を図る。
    ・個別ケアの考え方の理解、及びその提供方法をイメージした設計とする。
    ・職員配置を考慮したレイアウトとする。
    ・必要最低限の設備及び備品の設置により、入所者の私物持込の自由を確保する。

    ≪ソフト面≫
    ・「入所者本人の意思や希望をしっかり聞く」という原点に立ち返り、「自宅であればどのように過ごすのか」という視点が重要である。
    ・担当職員の固定化により、入所者・職員間のコミュニティづくりを図る。
    ・アセスメントデータと意思確認による随時の個別支援を実施する。
    ・入所者の自由な移動を確保する。

    (2)良好な居住環境を確保するための留意点
    ≪ハード面≫
    ・多床室からユニット型個室に改修する場合、定員の減少分については小規模な特別養護老人ホームを整備し受け入れる。
    ・多床室を整備する場合、一人ひとりのスペースに窓を設け、3面に壁があるなど個室に近い環境を整備する。
    ・ベッドの配置に合わせて小さな照明を分散設置し、また、持ち込み家具の配置にも柔軟に対応するため、コンセントやテレビアンテナ端子の数を多めに設置する。

    ≪ソフト面≫
    ・個別ケアの実践の裏にあるリスクを職員が理解し、緩やかに見守りつつリスクを最小化する。また、リスク顕在化への認識を家族と予め共有する。
    ・良好な居住環境は一律ではないため、本人の意思や希望を聞き取り、それに合った環境をつくる。
    ・入所者が認知症の場合、本人、家族、施設の思いを少しでも揃える努力を続ける。

    本事業の調査結果を通じて、居室の類型に関わらず、入所者にとって望ましい居住環境が確保されている効果的な取組みや好事例がヒントとなり、全国の特別養護老人ホームが多様な選択肢の中から自らの施設に取り入れ、各施設にあった居住環境の改善方策を見出すことができれば、効率的かつ効果的に居住環境の質を向上させることができると考えられる。また、施設職員にとってケアのしやすい環境という観点からも、紹介した工夫からヒントを得て、各施設に導入されれば施設職員の業務負担軽減やケアの質の向上、ひいては職員の新規採用や継続就労につながると考えられる。

本件に関するお問い合わせ

公共デザイン本部 医療・福祉チーム

TEL:03-6214-4613

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