コラム

2020/01/08チョコレートに詰まった世界

国際本部 国際協力部 副主任研究員友光 泉

以前、仕事の関係で広島県に住んでいたことがあり、その時の縁がきっかけで、今でも数年に一度はプライベートで広島県を訪れるようになった。住んでいた場所は県東部の福山という街で、最近訪れる地域も尾道やしまなみ海道沿いの島が多い。
尾道から渡船で5分程の所に因島という島がある。因島を訪れた際、面白いチョコレート屋さんを見つけた。カフェの運営とチョコレートの販売をしているのだが、カフェの窓から瀬戸内海を見渡せるように家具が配置してあったり、チョコレートのパッケージがおしゃれだったりと、随所にこだわりが感じられた。いわゆる今流行の「クラフト・チョコレート」である。また、調べてみると、チョコレートの原料となるカカオ豆の一部を、カカオ農家から直接仕入れる「ダイレクト・トレード」によって調達しているそうだ。

ダイレクト・トレードは、カカオ農家などの生産者と直接契約によって取引をするもので、業者などを介して取引するのと比較して、生産者に還元される収入が高くなる。巷で良く耳にするフェア・トレードとは異なり、認証機関が定める基準やフィーなどがないのも特徴的である。
カカオ豆は、生産と消費において地域的なギャップがある。世界のカカオの約4分の3がアフリカで生産されるのに対し、カカオの消費量が最も高いのはヨーロッパで、世界のカカオの半分近くが消費されている。一方で、カカオの主要生産国では、カカオ農家が十分な収入が得られていない。世界の生産量の43%を占めるコートジボワールでは、カカオ農家の1日あたりの収入が$0.78(*1)ととても低く、貧困を背景として児童労働などの問題も報告されている。また、チョコレートの商品価格のうちカカオ農家の収入になるのはごくわずかというデータも公開されている。バリューチェーンの中でカカオ農家が享受できる部分が薄いことに加え、カカオの値段は国際商品価格で決められるため、彼らの収入は変動的な国際需要に左右されることになる。

カカオ農家の収入を保証するため、コートジボワール政府はカカオ買い取り価格の最低価格を設定する制度を2012年から導入している。国際的には、カカオ生産コミュニティーの児童労働問題に取り組むべく、International Cocoa Initiative(*2)が発足し、大手カカオグラインダーメーカー、チョコレートメーカー、市民社会団体などが参加している。国際的イニシアチブへの参加だけでなく、ネスレやカーギルなど貧困問題やサプライチェーン改善のための独自の取組みをしている企業もある。但し、コミュニティー全体の貧困問題を解消するための道のりは長い。
小さなチョコレート工場のダイレクト・トレードはささやかな取組みかもしれない。しかし、一部でもカカオ農家の収入向上に直接結びつくことに間違いはなく、取組み自体に意義があると思う。小さなチョコレートに詰まった大きな世界を感じながら、こういった取組みが広がっていくことを願うのであった。

*1 Fountain, Antonie & Huetz-Adams, Friedel. 2018 “cocoa barometer 2018” VOICE Network.(元出所:Rusman, Andrea et al. 2018 “Cocoa Farmer Income: The Household Income of Cocoa Farmers in Côte d’Ivôire and Strategies for Improvement” Fairtrade International)

*2 International Cocoa Initiative Foundation. “International Cocoa Initiative” https://cocoainitiative.org/

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