コラム

2018/06/01美味しい季節

調査本部 PPP推進部 副主任研究員齋藤 優

先週末、日比谷とビアガーデンを「かけた」イベントが行われているということを耳にし、ビール目当てに日比谷公園に赴いた。強い日差しが照りつける中にあって大勢の人で賑わっており、腰を落ち着ける場所を探すことに苦労しつつも、同じ「趣味」の人が一同に会する光景に心躍った。
日比谷公園の噴水広場では日々飲食関係のイベントが多く開催されている。思えば、日本全国のあちこちで開催されている、ビールのお祭りである日本版「オクトーバーフェスト」に初めて足を運んだのも日比谷公園であった。誤解を恐れずに言うならば、私にとって、日比谷公園=ビールを飲む場所、という方程式が成り立つ。

本場ドイツのオクトーバーフェストは毎年9月半ばから10月上旬にかけて16日~18日間ミュンヘンで開催されており、1810年に開催されたバイエルン王太子の結婚式に端を発する伝統的な祭典である。42ヘクタールもの広大な敷地に設置される仮設レストランとしての巨大なテントや移動式遊園地に世界中から観光客が集まるその数は、1980年~2015年の平均来場者数は630万人、それに伴い飲まれるビールの平均消費量は570万リットルであり、経済効果は112億円とも400億円とも言われている。また、地元参加者においては、南ドイツの民族衣装(男性はレーダーホーゼン(伝統的な革製半ズボン)、女性はディアンドル(エプロンドレス))を着用する風習が広まっている。まさに「世界最大規模の民族祭」と呼ぶに相応しい内容と規模感である。

本場のオクトーバーフェストではマスと呼ばれる、容量が1リットルのビールジョッキが使用される。他方、欧米と比較して相対的にお酒の弱い体質に配慮してか、日本版では500ミリリットルのジョッキやグラスが主流となっている。どちらのジョッキ・グラスにも表側には提供されるビールの会社やブルワリー(醸造所)のロゴ・マークが入っているが、裏側には目盛り(線)がついている。この目盛りまで注がなければいけないことがドイツの法律として規定されており、さらにビールの場合泡は容量には含まないため、泡がこの目盛りを下回ると法律違反になるということであるから、なかなか厳格な話である。
この話は当然日本では適用されず、ビールを注文して目の前で注がれる様を眺めているうちに、目盛りを大幅に下回る泡を見ては悲しい気持ちになったりするものであるが、こと日本においても泡の量を巡って裁判で争われたことがある。
1940年に東京都上野のビアホールで泡の量が多いと客が抗議したことから、警視庁経済警察部による捜査へと発展した。その捜査において、ビールの仕入れ量に対し売上が多いことを理由に、ビールの泡をビールとして販売することで不当に利益を得ているとしてビアホール運営会社が起訴されたという事件である。その後、「ビールよりも泡の方が、アルコール濃度が高い」ことが証人の学識経験者から主張されたことが決め手となり、1944年東京地方裁判所において「ビールの泡もビールに含まれる」として、無罪判決が下されたことが記録として残っている。世の東西を問わず、たかが泡、されど泡と真剣な人が多いようだ。

本当は歴史や現況、種類の違い等についても触れる予定ではあったが、そろそろ筆をグラスに持ち替えたい。

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