コラム

2019/07/01書を捨てよ、街へ出よう

国際本部 国際協力部 主任研究員佐藤 美由紀

「最近の日本の若者は海外旅行をしない。」海外出張から戻り、久しぶりの日本の我が家でテレビの情報番組を見ていたら、コメンテーターがそう言った。そのコメンテーター曰く「日本ほど快適な国はないからではないか」と。業務の都合上海外で、まとまった期間滞在しながら仕事をすることが多い今、出張の合間に日本にいると確かに日本の良さが身に沁みる。最初に思いつくのはなんといってもトイレがきれいなこと。どんなに経済的に発展が進んだ国でも、日本並みに安心して外出先でトイレが使える国はそうそうない。治安もいい。以前アフリカから日本に研修できた人が「ファストフード店に買ったばかりのカメラを置いて出てしまったが、気づいて3時間後に戻った時にも同じ場所にまだあった」と感激していた。自分の所持品を手からうっかり離そうものなら何者かの手にわたり行方が知れなくなるということが珍しくない国はまだまだ多い。電車では席で寝ながら降車駅まで乗っていてもスリの被害にあうことはほとんどないし、女性が仕事で帰りが遅くなっても、無事に駅から家まで帰れる。かつては「こんなことだから日本は世界で戦えない」といった「日本の常識は世界の非常識」をあげつらうテレビ番組を多くみかけたが、今はその非常識を来日した外国人が礼賛する番組が増えた気がする。短所だと思っていたものは実は長所だったらしい。

海外に行くと、日本はすごいなと改めて思うことも確かに多くあるが、何もかも日本の方が優れているとまでは思わない。出張先の国に行くと、必ずひとつは「日本よりいいところ」が見つかる。それも日本を離れるからわかることだ。ミャンマーで食べたライチとマンゴーは日本で食べるものより何十倍もおいしかったし、日本の金閣寺のような金色の寺院はミャンマーでは「よくある寺院のスタイル」で、各都市に点在するそのきらびやかな姿に心を奪われる。ウズベキスタンの地下鉄の車内ではお年寄りや大きな荷物を持った人、子連れの女性が乗車すると席に座っている乗客が無言で席を立ち、譲られた側も特にお礼を述べることもなく、静かに席に着いていた。席を譲る・譲られることは「親切な行動」「感謝すべきこと」というよりも「当たり前のこと」として、空気のように自然と席を譲りあう姿に驚きとある種の感動を覚えた。街の景観を大切にするブータンは伝統的なスタイルの建物で統一され、街全体が山の景色と調和しておとぎの国のようだ。また、建物の壁には絵が描かれていることが多く、その絵柄や模様がとても美しかった。行った先の国にも、日本に教えたいくらいいいところがたくさんあるのだ。

美術館のようなタシケントの地下鉄の駅 (ウズベキスタン)
美術館のようなタシケントの地下鉄の駅
(ウズベキスタン)
外壁の模様が美しい政府機関の建物 (ブータン)
外壁の模様が美しい政府機関の建物
(ブータン)

最近の日本の若者が本当に海外旅行をしないのかどうかは検証していないので定かではないが、若い人も若くない人も、時には日本を飛び出して、それぞれの国の違いや良さを楽しんでもらいたいと思う。

金色に輝く寺院(ミャンマー)
金色に輝く寺院(ミャンマー)

 

街のマンゴー・ライチ売り(ミャンマー)
街のマンゴー・ライチ売り(ミャンマー)

 

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