コラム

2016/05/01『資源の呪い』と『パナマ文書』

国際本部 国際第二部 研究主幹阿出川 廣信


『資源の呪い』(Resource Curse)とは、ゲームやオカルト映画の題材ではなく、天然資源産出国がその資源輸出のために、経済発展が阻害されるという研究である。筆者は、アフリカ、中東、インドネシアやモンゴル等の資源輸出収入と国家財政管理の問題を研究しているが、この問題を解決する処方箋の作成はなかなか難しいのが現状である。資源輸出収入の一部を国家ファンド(SWF: Sovereign Wealth Fund)や政府開発銀行等で管理する手法と資源輸出収入を国内の産業開発やインフラ開発に活用する法律や政策の立案が課題克服のための一般的手法である。現在、ベネズエラやモンゴル等多くの資源輸出国が資源価格の大幅下落で財政危機に直面している。筆者は、近年、モンゴルでの滞在が長くなっているが、国家財政が緊縮財政や綱渡りの外貨繰りを強いられている中、首都ウランバートルでは高級ホテルや高級住宅の建設が継続されている状況に戸惑っている。この光景からはイソップ物語の「アリとキリギリス」を思い出してしまう。政治家、行政官及び国営企業経営者等のモラルの問題が最大の理由であり、2000年代初めからインドネシアやブラジルはこの問題と闘い続けているが、なかなか終戦とならない問題である。資源輸出収入管理のガバナンスやトランスペアレンシーの重要性を唱え続けることが国際社会において先進国に課せられた義務と考えている。
一方、2016年4月、国際社会最大の関心/懸念は国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)が発表した「パナマ文書」である。パナマ文書によって、先進国の閣僚の何人かが既に辞職している。もちろん、違法性の高い新興国や途上国の汚職問題と現行法制の中で行われている租税回避地問題は法的には全く異なるが、本質的には同じ原因から生じている問題であると言うことができるのではないだろうか? あえて、イソップ物語を曲解させていただくと、「アリさんの王様は、冬のキリギリス救済資金への募金はせず、せっせとため込んだお金をタックスヘイブンにおくり豊かな毎日を送っています」というブラックジョークに転じてしまう。


今度は、イソップ物語ではなくリチャード・ドーキンス著の「利己的な遺伝子(“The Selfish Gene”)」を思い出してしまった。
ポール・J・ザック著の「経済は『競争』では繁栄しない(“The Moral Molecule”)」を再読し、気を取り直してから、新興国及び途上国での経済協力に係る地道な活動を世銀やADBと協力して継続していきたい。

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